ゴルフを趣味にして数年、その奥深さを徐々にではあるが感じ始めている。まだまだ若輩者の私だが、ゴルファーの端くれとして一人前の欲だけは出てくる。例えば、名門と呼ばれるコースでのプレイ。今日は、縁があって三重県の桑名カントリー倶楽部でプレイさせていただけるチャンスが訪れた。桑名カントリー倶楽部は井上誠一(1906〜1981)という有名な設計家による美しいコースだ。
私にゴルフの楽しさを教えてくれたある人は、愛知県豊田市の南山カントリークラブの大ファンだ。まだコース経験も浅く技術的にも未熟な私に、その人は南山カントリーの魅力を懇々と話てくれた。ドライバーショットは高い球、低い球、フェード、ドローを使い分ける必要があること。一見広そうに見えるフェアウェイだが、実はその半分は安全にグリーンが狙えず、それゆえに正確なティーショットのポジション取りが必要なこと。ほとんどが砲台グリーンであり、正確なアプローチが必要であること。グリーンは固く、そこに止めるためには高さやスピンなどのアイアンショットの技術が必要なこと。それらを成功に近づけるためには14本のクラブを全て使う必要があること。などなど…。そして、しばらくして実際に南山カントリークラブをラウンドする機会があり、それらの意味を思い知らされた。つまり、未熟な自分には歯が立たなかった。当時の私のドライバーショットは低い球しか打てなかった。しかも右に曲がるスライス球。南山カントリーの11番ホールは距離はさほどない左ドッグレッグ。ティーショットで高いドロー系の球が打てれば、左の林の上をショートカットしてグリーン近くまで安全に運ぶことができる。技術的にそれが不可能な私には攻めようのないホールだった。もちろん他にも攻略を諦めさせられるホールがいくつかあった。そして、南山カントリークラブの設計が井上誠一というゴルフ場設計の巨匠によることを知った。以来、私は井上氏の設計コースを意識するようになった。
今日、ラウンドさせていただいた桑名カントリー倶楽部も井上氏の設計であることは知っていた。そして、もちろん今日を大変楽しみにしてきた。朝、コースに着くとそこでショックなことを知らされた。コースの一部の改修中とのことで、13番と14番のミドルホールが共にパー3のショートホールに変更されているのだ。12番ショート、15番ショートを挟んでパー3が4ホール続くのだ。一生に一度あるかどうかと思っていた名門桑名カントリー倶楽部のラウンドがパー70となり、体験できないミドルホールが2ホール出来てしまう。しかも、その2ホールとも右ドッグレッグで戦略性がとても高そうなホールなのだ。正直なところ、少なからずガッカリした。
さて、実際に13番ホールにたどり着いた。打ち上げのミドルホールのフェアウェイのど真ん中に仮設グリーンが設けられていた。フェアウェイ中腹からグリーンにかけてが工事中だった。14番ホールは逆にティーグラウンドからしばらくの間を工事しており、フェアウェイ左のラフの一部がキレイに刈られて仮設ティーグラウンドが設けられていた。
2ホールに渡るその工事区間をカートでパスしながら、私は運転するキャディーさんに工事の理由を尋ねた。キャディーさんいわく、『井上先生の遺言』だとのこと。桑名カントリー倶楽部が開場したのは1960年。当時の工事の技術では井上氏の思惑どおりコースを表現することができなかったらしく、やむを得ず妥協したレイアウトのホールが出来てしまったのだ。それを現在の土木技術で本来の設計どおりに表現するために現在改修工事が行われているとのことなのだ。
そんな話を聞いて、ティーオフ前に改修工事と聞かされてガッカリしてしまった自分が恥ずかしくなった。改修にとやかく言う私はといえば、クラブフェースの芯に当たるか否かの心配をしているほど低レベル。これから私がゴルフを続けていくうちに、いずれまた桑名カントリー倶楽部をラウンドする機会をいただけたなら、その時は井上氏の仕掛けた罠と対峙できるようにしっかり腕を磨いておきたいと思った。今日はパー70の桑名カントリー倶楽部をラウンドしたが、それもまた貴重な経験であったことは間違いない。

井上誠一設計コースの戦略性の高さについて、ちょっと興味があって調べてみた。今年、2008年の日本男子プロゴルフツアーは国内で24試合行われる。なんとそのうちの5試合が井上氏設計によるコースなのだ。一流のプロゴルファー等が闘い、それがドラマになることが約束されたロケーションであることの証である。