トヨタのメカニック時代は異音対策も重要な仕事だった。異音といってもそのほとんどはメカニカル的な故障の症状のことではない。クルマが壊れているのではなく、「気になる音」の意味合いが強い。「走行中に後ろのほうからチリチリ音がする」など、室内の軋み音のことをいうケースが多かった。室内の樹脂パーツ同士、または金属との間で振動によって擦れ合うときの音だったりする。輸入車と比較すると故障が少ないトヨタ車の場合、オーナーさまの要求はそんな細かな部分にまで及ぶのだと思う。
トヨタには、異音対策キットなるものがあった。あられの菓子箱ぐらいのダンボールには、様々な厚さのスポンジシートやフェルト地などがセットになっていた。片面には両面テープが貼られており、色も黒やグレーなど、室内に馴染む数色が用意されていた。異音の原因となる「擦れ箇所」が分かると、その場所に応じたスポンジやフェルトを適当な大きさや形に切って貼ることで音を消すわけだ。

そんな経験があったことも要因だろうが、今でも車内の軋み音には敏感である。今日もレンジローバーの異音の対策を行った。点検を承ったのだが、そのついでにもし原因が分かれば、と。
レンジローバー・ヴォーグのオーナーさまのお申し出は、ロードスペース(荷室)左側あたりからの音。振動と共に何かが擦れるような小さな音がすることがある。高速道路のランプなど、一定のカーブの途中で振動が加わったときに出やすい。始めは荷物が原因かとも思ったが、荷物を全て下ろして走っても音は出たようだ。原因が車両にあることは明白。
音はやはり再現するのが先決。対策の目的の音を、まずは確認する必要がある。さっそく試運転。路面が荒れている場所を探して車両にわざと振動を与えるように走った。やがて音は出た。一瞬だが、オーナーさまがおっしゃっている音であろうビビリ音が出た。金属板が小さく振動し、別の何かに細かく当たっている音のように感じた。
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ピットに戻ってロードスペースのトリムを外した。そこにあるのはデジタルチューナーなどのカーAV機器。周辺を手で叩いてみた。すると、振動に合わせて小さくビンビンビンという音がした。試運転で聞いた音と同じである。原因はおそらくここだろう。チューナーユニットと、ユニットが留まっている金属枠も車体から取り外した。そして、それぞれが干渉しそうな場所にスポンジシートを挟んで組み付けた。さきほどのように手で叩いてみると、音は消えていた。試運転をしても大丈夫。
今日オーナーさまにお車をお返しした。音の発生頻度が低かっただけに限られた時間の試運転での結果は完全とは言えないだろう。
それ以前に、オーナーさまが気になっていた音はもしかしたら別の部分の音かもしれない。もしその場合は全く的外れの対処をしたことになる。
どうか音が止まっていますように。