パソコンの中を整理していたら懐かしいファイルが出てきた。これはおよそ五年前、2010年の年初め、当時は製本版で発売されていた4x4 MAGAZINEのコラムを依頼されたときの原稿。まずは思うままに書いたのだが、その後、編集部から予定のページに収まらないとのことで少し短く校正された記憶がある。おそらく、これは修正する前の原本だと思う。

きっかけは2009年に行った店内の大改装。2008年から始まったリーマンショックで世は不景気となり、そんな最中に店内改装という投資を決行したことで編集部からは「なぜあのショップはこの時期に?」という疑問が沸いたのだという。

当時の本「4x4 MAGAZINE」も書庫を探せば残っているはずだが、これはその前段階の原稿。ゴミ箱に捨てる前にココに残しておけば良いと思い、ひとつの記録として今日の記事にすることにした。



レイブリックショック
「父さん、なぜ働いてるの?」中一の息子が突然聞いてきた。学校の宿題だという。なぜ働くかって!? 男の生きざまに関わる質問である。「話してもいいけど、お前じゃまだわからんぞ」と、笑いながら、しかし頭の中ではいろんな思いが駆け巡る。「働くことの意味」、改めて考えてみるとものすごく奥深い。
 「仕事の内容は? そのために父さんが取り組んでいることは? 苦労話とか、辛いことはない?」矢継ぎ早の質問だ。
 「仕事を辛いと思ったことはない。でも、マンネリ化から脱却するために、毎日、毎年、5年、10年の単位で絶えず変化させなきゃいけない。環境の変化にもついていかなきゃならない。父さんの仕事の苦労といえば、その方法を誰も教えてくれないことかな。攻略本があるワケでもない。自分の発想や能力を信じてそれに対応していくのはすごく難しいんだ。でも仕事ってね、生活とプライドを守るって観点から言ったら人生の中でこんなに素晴らしいものはなと思う、そういうものだよ」。

 息子には話せなかったが、実はこの二年はとても辛い時期を越えてきた。レイブリックは9月始まり、8月締めの決算。2008年8月締めの事業年度が苦しかった。始まりは2007年の12月。車両の売れ行きが例年より1〜2台少ない。1月も少なかった。営業スタッフを集めて緊急会議。「私の直感だが、おかしい。足りないのはここ数ヶ月のたった数台だが、これはただの偶然ではない気がする。上半期を待って原因を洗い出していては手遅れだ。残り7か月を全力で走るから、ひと月たりとも遅れるな」。そうハッパをかけた。でもその後は皆さんご存じの通り。春にはガソリンに関する暫定税率問題で国が右往左往し、更にゴールデンウィーク頃になると原油そのものも高騰、そして自動車業界不景気へ。3月決算のトヨタ自動車が過去最高益と、この世の春を謳歌していたまさにあの時期、しかしその後リーマンショックへと続くのだが、それよりも数ヶ月早くに訪れた「レイブリックショック」が、その年の決算期をまるごと飲み込んでいった。
 この状況を数年続けたら我が社は耐えられない。こういうのは一年だけにしよう。そうして2008年9月からはもう一度初心に戻り、がむしゃらに仕事に取り組んだ。明日やろうと思ったことを今日やったり、後でやろうと思ったことを今やったり、とにかくやれることをやっていった。

復活、そして未来への投資
 その結果、一年後の2009年8月期には過去最高の販売台数を遂げられた。毎週毎週、実績を追求しながら。「今、ペースからほんの少し遅れているぞ」「今月は今のところペースに乗っているが、いつこれが崩れるか分からないという危機感を持って油断せずにいこう。」「月末までに登録できるものは必ずしよう。今から陸事に行けば間に合う。そうすれば今月1台増える!」。 これを、「今日は月末で忙しいから登録は来月にしよう。納車の日も先だし」と言ってしまえば、今月の数字が下がってしまう。「明日に回しても良い仕事だとしても『今』やろう!」 そうやって営業活動も整備も貪欲にこなした結果だった。
 一年を振り返って、スタッフに聞いてみた。良い成果を残せたのはなぜだったかと。すると、「やるべきことを、当たり前にやったからじゃないですか」と言う。そう、スタッフは、当たり前のことを当たり前のようにこなせば結果を出せることを知ることができた。だからきっと今期も大丈夫。それなら昨期得た財産を未来へ向けて投資しよう。
 そこで、ずっとやりたかった店内の改装に着手した。本来なら、一年間がんばった分はボーナスにしてスタッフに手渡したいところ。まして、この一年半はみんなには厳しいことを言い続けてきた。でも改装はランドローバーに乗ろうと思いレイブリックを選んでくださったお客さまのためにどうしてもやりたかった。それが成功すれば、投資による効果はこの先何年も続く。今年上乗せできなかったボーナス分は、きっと来年再来年へと繋がっていく。だから今はお金ではなく物にかえる。昨年暮れのボーナスを手渡すときにはスタッフにそう説明した。

環境の変化から意識の変化へ
LAYBRICKランドローバーショップ 古くからのお客さまは、素直に喜んでくださった。良くなりましたね! この時期にすごいですね!対応する我々のお辞儀の姿も変わってくる。服装も変えた。言葉遣いも、マナーもエチケットも変えよう。変えなくちゃ。クリスマスにはクリスマス、正月には正月の飾りをしよう。お客さまはクルマだけじゃなく、レイブリックというお店ごと我々を買ってくれているのだから。そんな会話がスタッフの間で自然に出るようになった。それが何よりも一番嬉しかった。
改装は、今この時期だから敢えてやったとかそんな美しい話じゃない。ようやく資金ができたから可能になったことであって、それがたまたまこの時期だっただけのこと。
 でも、我々はこの空間と、先期得た自信を大切にしながら、今期も初心に戻ってやっていく。「自動車不況」とはいうけれど、ランドローバーの魅力は変わらず、求めるユーザーさんは必ずいる。そして時代に負けず、質の高いサービスを提供し続けられるお店は必ずある。我々もそれを目指し、その実感を皆さんにお伝えできたら、と思う。
 遅ればせながら、今年一年、よろしくお願い申し上げます。